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スーパーマーケットにおけるニューノーマルへの対応

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ニューノーマルとは何か

今般の新型コロナウィルス感染症の拡大は、未曾有の規模で我が国を含む全世界を混乱に陥れている。新型コロナウィルスの恐ろしさは、無症状の人を介して感染が広がることであり、効果的なワクチンが開発されて行き渡るまで、所謂「Withコロナ」の時代が続くことは間違いない。そして、今般の新型コロナウィルス感染症が終息に至ったとしても、また新たな感染症が発生する可能性は誰も否定できない。

ニューノーマルとは文字通り”新しい常態“という意味で、世の中はもうそれ以前には戻らないということを示している。今般のパンデミックを経験して、「withコロナ」、「afterコロナ」の社会はどのように変わっていくだろうか。新型コロナの功罪のうち「罪」については改めて列挙するまでもないが、唯一の「功」は、これまでの社会の在り方について改めて深く考えるきっかけを与えてくれたことではないだろうか。誰の目にも映った行政だけをとっても、特別定額給付金の支給や新型コロナ罹患患者の集計における運用は、DX(Digital transformation)を謳いながら、実態は極めて旧態依然としていたことが露呈された。

巷間言われるニューノーマル(新常態)とはどんな社会であろうか。今般のコロナ禍を教訓あるいは契機として、「Withコロナ」、「Afterコロナ」にあって、世の中はどのように変わるのだろうか。世界経済フォーラム(WEF)が本年開催する年次総会(ダボス会議)のテーマに挙げた「グレート・リセット」が示唆するように、パラダイムシフトをもたらすものなのだろうか。

社会はどう変わるか

新型コロナウィルス感染症は、ほぼすべての産業に大きな打撃を与えている。そして、世の中は、嵐が過ぎ去るのを待つのではなく、嵐の中で生きていく術を考えることを始めている。今般の新型コロナウィルス感染症の拡大への世の中の対応は、一言で表せば、「非接触」に尽きる。企業においても、緊急避難としての在宅勤務が、オフィスの在り方、組織の在り方そして働き方を考え直す起爆剤となっている。また、リモートワークが余儀なくされたことによって、一極集中、日本型雇用、ワークライフバランスについて見直す契機となっている。

一方、かつての感染症がそうであったように、新型コロナウィルス感染症も長い目で見れば一過性のものであり、終息して1年も経てば「beforeコロナ」と変わらない社会、組織、生活が戻ってくるだろうと言う逆の見方も一部にはある。いずれにせよ、今般の新型コロナウィルス感染症の拡大によって、DX(デジタル・トランスフォーメーション)への要請が高まっていることは間違いない。

ニューノーマル社会

ニューノーマルにおけるキーワードは非接触である。非接触は、テレワークに代表されるデタッチ・コミュニケーションによって達成される。組織における非接触は、今後の5Gネットワークの展開と相俟って、東京一極集中の要請を緩和し地方への機能分散をもたらす。そして、リモートワークを前提とした移住、二拠点生活あるいはワーケーションを推し進めるだろう。また、リモートワークの定着によって、これまでの ”人に仕事をつける“というメンバーシップ型雇用からの脱却が余儀なくされ”仕事に人をつける“というジョブ型雇用への転換が進むことが推測される。

ニューノーマルの課題

ニューノーマルは、新型コロナウィルス感染症の拡大を教訓あるいは契機として、地球温暖化、少子高齢化、低生産性という積年の課題にどう立ち向かっていくのかということを改めて考える機会でもある。地球温暖化に対してこのまま手をこまねいていて良いのか、人手不足に打つ手はないのか、低すぎる営業利益率はこのままで良いのか、今こそこれらの諸課題の解決に取り組んで行く必要があるのではないだろうか。

スーパーマーケットの経営環境

スーパーマーケットは、今、スマートフォン、SNSの普及による消費者行動の変化、EC(Electronic Commerce)の急速な成長、人工知能の飛躍的進歩と5Gの本格的サービス開始を背景として、大きな変革が求められている。今こそ、コロナ禍を契機として、デジタル・トランスフォーメーション(Digital Transformation)の推進の時である。

Withコロナの消費者行動

「Withコロナ」の時代において、消費者の買物行動においても顕著な変化が見られている。それらの主な特徴として、計画的購買、まとめ買い、低価格志向を挙げることができる。かつては“買物客の80%は店内で今晩の献立を決める”と言われていたが、ニューノーマル下の消費者には、あらかじめ買うものを決めているという傾向が表れている。また、かつては安さを求めて複数の店を渡り歩くという買物態様が見られたが、ワンストップ・ショッピング、買物頻度の減少、滞在時間の短時間化が常習化している。更に、「Withコロナ」による収入減への対応あるいは雇用、賃金に対する不安から、カップ麺でなく袋麺、生鮮野菜でなく冷凍野菜というような低価格志向が指摘できる。

ニューノーマルにおけるスーパーマーケット

スーパーマーケットは、我が国でも生活必需物資販売施設として、「社会生活維持の為必要な施設」であり、「感染防止対策の協力要請」対象施設であることから、在宅勤務や外食の抑制による家庭内食品需要の増大と不安感による食品や日用品の備蓄傾向によって、負のコロナ・エフェクトではなく、寧ろ例外的に売上の増大がもたらされた。

しかしながら、スーパーマーケットも、ニューノーマルの例外ではない。「非接触」を追求することは、スーパーマーケットにおいても無人化を追求することであり、あるいは接触の最少化を追求するファストショッピングを可能にすることである。そしてそれは同時に、新しいビジネスモデル、新しいサービス、新しいオペレーションを模索することであり、結果として、経営の革新に繋がるものである。低すぎる営業利益率はこのままで良いのか、人口減少下においても前年対比増を目指し続けるのか、人手不足に打つ手はないのか、今こそこれらの積年の諸課題の解決に取り組んで行く必要があるのではないだろうか。

スーパーマーケットはどう変わるべきか

スーパーマーケットは、低生産性が指摘されている我が国の産業の中でもとりわけ顕著な業態である。ニューノーマルにおける非接触あるいは無人化は、新しいビジネスモデル、新しいサービス、新しいオペレーションを想定したDX(デジタル・トランスフォーメーション)による低生産性からの脱却への道筋を示すものでもある。

また、密を作るのが小売業であって、非接触は、実店舗における販売を前提としたスーパーマーケットにとって、それ自体は明らかにECに対して劣後する。従って、アマゾン・エフェクトとして取り上げられたリアル(実店舗)対バーチャル(ECサイト)の図式ではなく、リアルへの展開を図るアマゾンとバーチャルを強化するウォルマートに習い、店舗を単に売場であるだけでなく同時に倉庫としても位置づけたECとの融合を図らなければならない。

一方、店舗内での非接触あるいはファストショッピングを図ると共に、実店舗でなければ実現できないベネフィットを買物客に提供することを追求していくことが極めて重要である。

DX(デジタル・トランスフォーメーション)の具体策

これまで述べてきたように、ニューノーマルにおいてスーパーマーケットに求められているものは将にDX(デジタル・トランスフォーメーション)である。

以下に挙げるものは、既に先駆的な企業では実用段階に入っているものもあり、また、現時点におけるICTでは未だ商業ベースで実現できていないものも含まれる。それら技術環境ばかりでなく、業態としてのスーパーマーケットにも囚われず、スーパーマーケット企業にとってのDX(Digital Transformation)を中心に、具体的対応策について考えてみたい。

買物客の店内在留自動計測

店内在留客数を自動計測し、入口のデジタル・サイネージの色で入店制限を告知する。また、検温、手指の消毒を自動化し、マスク着用を画像分析でチェックする。更に、入店人数だけでなく、レジに並んでいる行列、サッカー台、売場の人の集積度を感知し、デジタル・サイネージ等に表示する。

製品・サービス D sign クリーン(デジタル・サイネージ/検温、手指の消毒)
事例 北洋銀行
実現段階 稼働中
製品・サービス アユダキュート(仮称)検温・マスク検知ロボット
事例 なし
実現段階 開発中

店内換気自動制御

「密閉」については、省エネルギー・システム導入の一環として、店内温度自動調節と併せて定時的な自動換気システムが必要である。二酸化炭素を計測する空気質センサーによって、店内の換気状況を自動計測し、換気を自動起動させあるいは異常状況を自動感知することによって、アラーム警告を発する。

製品・サービス イオン新型コロナウィルス防疫プロトコル
事例 イオンモール上尾
実現段階 稼働中

自動手洗

手洗いについては、感染症対策だけでなく、食中毒の85%は食品それ自体に由来するものではなく調理従事者による二次汚染が発生要因と言われており、自動手洗い器導入などによる30秒手洗いの励行が徹底されなければならない。

製品・サービス WASHBE(ウォシュビィ)
事例 茨城県福祉施設
実現段階 稼働中

バーチャル・ディスプレイ

プロジェクション・マッピング技術を応用して、バーチャルな売場ディスプレイを表現する。リアルなディスプレイでは表現できない売場の楽しさを演出するだけでなく、売場改装負荷の削減効果をもたらす。

製品・サービス 次世代型プロモーション(共同印刷)
事例 (Future Store Now 2020)
実現段階 稼働中

ダイナミック・デジタル・サイネージ

デジタル・サイネージに、夕食のメニュー、栄養素・カロリー、レシピおよび調理動画を流す。双方向デジタル・サイネージでは、会員顧客の通過の際には、顔認証あるいはビーコン連動などにより顧客を特定し、当該顧客に対するリコメンドを自動的に表示することができる。天気、時間帯などによって表示内容を自在に変えることができ、POP作成業務の省力化に寄与すると共に、今夜の献立をリコメンドすることによる販促効果を期待できる。

製品・サービス デジタル・サイネージ
事例 関西スーパー
実現段階 稼働中

店頭商品自動補充

店内設置カメラおよび重量センサーによって店頭商品の棚の在庫状態をモニターし、バックヤードから商品を自動的に補充する。バックヤードの商品在庫の取り出し、運搬および商品補充陳列は自動ロボットあるいは遠隔操作ロボットが行う。商品補充の無人化による非接触の実現に加え、欠品あるいは食品ロスの低減を図る。

製品・サービス 遠隔操作店舗商品陳列ロボット
事例 ファミリーマート
実現段階 実証実験

メディア情報自動連携

自動補充発注システムに、テレビなどマスメディアの健康番組、ツイッターなどSNSでの急増話題などを自動的に投入する仕組みを構築し、外部要因としてのコーザルデータとして発注量の算出に反映させ、需要急増による欠品を回避する。

製品・サービス なし
事例 なし
実現段階 未開発、アイデアのみ

ストア・コンシェルジュ

接触機会それ自体の低減のみならず省力化そしてインストア・プロモーションというアプローチからも、コンシェルジュ・ロボットの活用を図る。店舗入口傍に設置したメディア・キオスクで、買物客の音声入力に対し、売場案内を含む買物客の問合せに対応する。

製品・サービス アユダ受付業務案内ロボット
事例 藤沢市役所
実現段階 実証実験

商品所在場所案内

自社スマホアプリに提供されたチラシに記載されたあるいはそれ以外の商品の所在場所を、音声出力あるいは店内地図で案内する。ビーコンを利用して、至近距離に至った時点でスマートフォンあるいは電子棚札のアラームを起動させる、あるいはロボットに音声で商品を伝え所在場所まで案内させる。いずれにおいても、買物の短時間化と問い合わせ対応の自動化による非接触と省力化に寄与する。

製品・サービス 音声認識AIによる商品所在場所案内
事例 アマゾン・フレッシュ・ストア
実現段階 稼働中

ライブ・コマース

店舗に要員を配置することなく、遠隔地に居る従業員が無人の売場の買物客に対してリアルタイム双方向コミュニケーションによる商品実演販売を行う。現状の通信環境では若干のタイムラグが生じするが、5Gの採用で解消できる。また、売場が有人であっても、外国語対応など各店舗に要員を配備することが困難な接客ができる。

製品・サービス ハンズアップ
事例 三松
実現段階 稼働中

タブレット付買物カート

プリペイドあるいはクレジット機能付きの会員カードを端末に登録し、商品のバーコードをかざしてカートに入れれば、買物をしながら決済も完了する。最後に確認用のゲートをくぐるだけでレジ待ちはない。個人IDを捉えることによって、不正利用を未然に防ぐことができる。非接触に加えて、買物客の買物時間短縮、レジ業務の省力化を実現する。

製品・サービス アマゾン・ダッシュ・カート、リテールAI
事例 アマゾン、トライアル・ホールディングス、丸久、イオン
実現段階 稼働中

ジャスト・ウォークアウト・テクノロジー

アマゾンのアマゾン・グロサリーで実運用されているジャスト・ウォークアウト・テクノロジー(JWO)は、天井に張り巡らされたカメラおよびセンサー、棚の上のセンサーおよび重量計などのディバイスを含むシステムによってウォークスルーを実現する。これは、コンビニエンス・ストア規模の店舗で適用されていたアマゾン・ゴーに対し、スーパーマーケット規模の店舗にも適用できることを示している。(2020年3月、米国において他企業へのライセンス販売開始)

製品・サービス ジャスト・ウォークアウト・テクノロジー
事例 アマゾン
実現段階 稼働中

OMO(Online Merges with Offline)

OMOは、バーチャル(EC)とリアル(実店舗)の融合を意味する言葉で、競合業態であったECとの融合を図るビジネスモデルである。商品注文と商品受取に関して、下記の組み合わせの多彩なサービスを提供する。

注文 受取
普通の買物 店舗で選ぶ 自分で持ち帰る
宅配サービス 店舗で選ぶ 宅配
ピックアップ スマホで注文 カウンター等で渡す
EC スマホで注文 宅配

▼宅配サービス

買物客にとって、米や酒など重量があるもの、あるいはトイレットペーパーやペット・フードなど嵩張るものの自宅への持ち帰りは、できれば避けたい行為である。買物客が購入した商品を配送する宅配サービスを会員制で行う。サブスクリプション・サービスにすることによって、収益と顧客の固定化が図れる。配送先を自宅だけでなく勤務先、託児所などの選択ができるようにする。宅配手段としては、ロボット宅配、自動運転車あるいはドローンを採用する。

製品・サービス ロボット配送(三菱商事他)
事例 岡山県玉野市
実現段階 実証実験
製品・サービス ドローン配送
事例 長野県伊那市
実現段階 実証実験
製品・サービス トラック完全無人配送
事例 ウォルマート
実現段階 実証実験

▼ピックアップ・カウンター/カーブサイド・ピックアップ

売場で商品を確認する必要が必ずしもないグロサリー、雑貨などをあらかじめスマートフォンなどで発注し、従業員が売場から商品をピックアップし、生鮮食品などの買物の退店時にピックアップ・カウンターあるいは店舗設置ロッカーで買物客に引き渡す。決済は、スマートフォンで完結させる。また、ETC決済にも対応して、駐車場あるいはドライブスルーで買物客に商品を引き渡す方式も考えられる。買物客は自ら持ち帰るにしても、売場を探す、商品を選ぶ、レジに並ぶという行為をせずに、且つ接触機会を回避することができ、都合の良い時間に買物をすることができる。

製品・サービス ドライブピックアップ!
事例 イオン
実現段階 稼働中

▼EC(Electronic Commerce)

サービスを実現するには、フルフィルメント業務に対応する為に、店舗を単に売場であるだけでなく同時に倉庫としても位置づけて、バックヤードがECのセンターと同様に機能する必要がある。また、商品ピックアップおよび商品引き渡しは、来店客数予測に基づく勤務シフト自動生成システムに基づいて兼任要員をアサインする。

製品・サービス ウォルマートプラス(サブスクリプション・サービス)
事例 ウォルマート生鮮宅配
実現段階 稼働中
製品・サービス ネットスーパー
事例 ダイエー、デリシア生鮮宅配
実現段階 稼働中

▼ミールキット・サブスクリプション

食事の在り方から、店頭での取扱商品については、食材/ミールキット/セミデリカ(冷凍食品)/デリカなどニーズに応じた多様な選択肢の提供が求められる。顧客家族構成に適したメニューのミールキットを毎週あるいは毎月のサブスクリプション・サービスとして提供する。新たな業務負荷ではあるが、スマートフォンからの一定日数以前の事前発注、店舗運営ではなく物流センター業務とすれば、即時対応のECと比べてハードルは高くない。

製品・サービス 銘柄米とおかず一品サブスクリプション・サービス
事例 雪本米穀
実現段階 稼働中

その他のDX具体例

▼データ活用基盤

セブンイレブンのセブンCENTRALは、店舗情報をリアルタイムに把握し、データを活用した判断を支援する。既存システムからリアルタイムにデータを収集、処理する。加工済データを加盟店、現場社員、本部社員、グループ会社、取引先に提供する。ユーザは、ダッシュボード、ピボットテーブルを利用して情報を活用することができる。

▼値引情報配信

ローソンの消費期限が迫った商品の値引き情報をスマートフォンに配信するサービス。過去1ヵ月分の購買データと位置情報から、午後5時以降に店舗に立ち寄る可能性の高いauPayおよびポンタ会員に対し、アプリで店舗ごとの弁当、デザートなどの値引き情報をプッシュ通知する。

▼店舗改装

関西スーパーは2024年度までに全店舗を改装する。売場については、商品を見つけやすいように、これまで鮮魚、精肉などに分かれていた総菜の「デリカ・ステーション」へ集約し、消費者の健康志向に対応した「減塩」、「低糖質」などのカテゴリーを新たに設ける。総菜については、最新設備の導入効果を図り作業スペースを1箇所へ集約した。また、デジタル・サイネージ、自動発注システムの導入など省人化投資を図る。

以上

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