コラム

近未来のスーパーマーケット

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環境の変化

スマートフォン、SNSの普及による消費者行動の変化、EC(Electronic Commerce)の急速な成長とバーチャル(EC)とリアル(実店舗)の融合によるビジネスモデルの変革、人工知能の飛躍的進歩と5Gの本格的サービス開始によるデジタル・トランスフォーメーション(Digital Transformation)の進展、これらによってスーパーマーケットは大きな変革期にある。

スーパーマーケットは、成長の為に今後どのように変わっていくべきなのか、あるいは延命の為にどのように変わらなければならないのか。ここで挙げるものは、既に先駆的な企業では実用段階に入っているものもあり、また、現時点におけるICTでは未だ商業ベースで実現できていないものも含まれる。それら技術環境ばかりでなく、業態としてのスーパーマーケットにも囚われず、スーパーマーケット企業にとって、5年後2025年に勝ち残れるスーパーマーケット像を消費者視点で描いてみたい。

スーパーマーケットでの買物

消費者は買物に何を求めているだろうか。消費者はスーパーマーケットでの買物に何を求めているだろうか。おそらくこの答えは異なる。相対性を強調して表現するなら、前者は買い物の楽しさであり、後者は買い物の便利さではないだろうか。これまで、消費者は、スーパーマーケットでの買物に便利さを求めることはあっても、楽しさを期待することはなかった。スーパーマーケットというものはそういうものだと納得していたのかもしれない。しかし乍ら、生鮮食品をも含めたネット・ショッピングを始め、スーパーマーケットでの買物以外の多くの選択肢が出現している現状において、スーパーマーケットが本来の買物の楽しさを放棄したままで良いはずはない。そして、スーパーマーケットが楽しさにおいて、バラエティやアパレルなど非食品専門店に勝ることはできないにしても、少なくとも便利さあるいは顧客が面倒に感じることをより少なくすることは、確実に求められるだろう。

スーパーマーケットでの買物は、実店舗に足を運ぶ⇒売場を探す⇒商品を選ぶ⇒レジに並ぶ⇒お金を払う⇒商品を持ち帰るという行為を伴う。

「実店舗に足を運ぶ」という行為に価値があるのは、実店舗でしかできない消費者にとって好ましい体験があったり、実際に商品を手に取って確かめたりしたい場合である。そうでない場合には、実店舗での買物は面倒であり、「売場を探す」という行為も含めて、ECが優位である。

「商品を選ぶ」という行為は、いつもと同じものを買うのであれば不要な行為である。また、バーチャル(ECサイト)では、既にリコメンドや口コミ情報の参照などその手助けさえも期待できる。そればかりでなく、アマゾン・エコーのアレクサでは、技術的には、音声入力の声からのど飴を自動発注するところまでに達している。

「レジに並ぶ」、「お金を払う」という行為は、チェックアウトレス・システムの出現によって、実店舗に不可避な作業ではなくなっている。また、「商品を持ち帰る」という行為は、宅配などのサービスにより代替できるものである。

実店舗 近未来実店舗 EC
実店舗に足を運ぶ
体験、商品確認ができる
不要
いつでも、どこでも
売場を探す
売場案内システムで支援
不要
検索する
商品を選ぶ
体験、商品確認ができる
要(検索する)
不要(再注文)
レジに並ぶ 不要(ウォークスルー) 不要
お金を払う 不要(ウォークスルー) 要(決済する)
商品を持ち帰る 要(持ち帰り)
不要(宅配、ピックアップ)
不要

スーパーマーケット企業の方向性

こうしてみると、近未来のスーパーマーケットの目指すべきは、生活必需品の買物を、面倒に感じさせずに、快適さを与えること、と言えよう。その為には、実店舗でなければ実現できないベネフィットを買物客に提供することに傾注し、競合業態であったECとの融合を図り、ICTの高度利用によって便利さを追求する、ことである。

近未来のスーパーマーケットを語る場合に、最早従来の業態としてのスーパーマーケットの範疇に留まることは思考停止を意味する。昨今のドラッグ・ストア企業は、スーパーマーケット業態の主力商品である食品へのラインロビングを展開しており、一部企業ではグロサリーに留まらず既に総菜、生鮮食品へも浸出している。スーパーマーケット企業が、食われる前に食うのであれば、如何なる方法を執るかは別として、ドラッグ・ストア業態の主力商品・サービスである一般医薬品、健康美容商品、調剤への進出は当然に検討されるべき課題である。

また、ECについては、アマゾン・エフェクトとして取り上げられたリアル(実店舗)対バーチャル(ECサイト)の図式ではなく、リアルへの展開を図るアマゾンとバーチャルを強化するウォルマートに習い、同様に方法は別として、店舗を単に売場であるだけでなく同時に倉庫としても位置づけて、ECとの融合を前提としなければならない。

近未来のスーパーマーケット

実店舗に足を運ぶ

スーパーマーケットの主力商品である食品、とりわけ生鮮食品については、如何にECが急成長しているとしても実店舗の存在価値がなくなることはない。アマゾンがこれまで展開してきた7つの実店舗のフォーマットのうち4つのフォーマットが食品を扱うコンセプト店舗であることがそれを示唆している。しかし、それは実店舗が買物客にとって、実店舗であることによる価値があり、実店舗であることによる煩わしさをできる限り感じさせないものであることが条件である。

スーパーマーケットの買物客の8割は夕食のメニューを決めていないと言われていた。スーパーマーケットの実店舗に足を運ぶということは、売場を廻り商品を見ながら夕食のメニューを考えるということでもある。加えて、スーパーマーケットの実店舗に足を運ぶインパクトが更にあればより吸引力は高まる。そして、品揃えが充足されており欠品がないことも重要な要素である。

バーチャル・ディスプレイ
プロジェクション・マッピング技術を応用して、バーチャルな売場ディスプレイを表現する。売場の楽しさを演出するだけでなく、売場改装負荷の削減効果をもたらす。
ダイナミック・デジタル・サイネージ
双方向デジタル・サイネージに、夕食のメニュー、栄養素・カロリー、レシピおよび調理動画を流す。家族構成、嗜好などをタッチパネルで入力させメニューを絞り込む。会員顧客の通過の際には、顔認証あるいはビーコン連動などにより顧客を特定し、当該顧客に対するリコメンドを自動的に表示する。
健康診断
サービス・スペースに、服を着たままで簡単に健康状態を計測できる装置を設置し、健康状態と摂取すべき栄養素などに基づく食品素材、推奨メニューおよびレシピを提供する。また、スマホをかざすことにより、健康状態を時系列に把握できるようにする。
メディア情報自動連携
自動補充発注システムに、テレビなどマスメディアの健康番組、ツイッターなどSNSでの急増話題などを自動的に投入する仕組みを構築し、外部要因としてのコーザルデータとして発注量の算出に反映させる。メディア発信情報に基づく需要急増による欠品を回避する。
商品自動補充
店内設置カメラおよび重量センサーによって店頭商品の棚の在庫状態をモニターし、バックヤードから商品を自動的に補充する。バックヤードの商品在庫の取り出し、運搬および商品補充陳列はロボットが行う。店内設置カメラによる画像情報からロボットの走行が困難と判断した場合は、担当者のリストウオッチにその旨を伝達し、人手による商品補充に切り替える。

売場を探す

買物客が購入商品を決めている場合は当然ながら、売場を廻り商品を見ながら購入商品を決める場合であっても、すべての導線を回遊する訳ではない。回遊から離れて、あるいは直接に特定の商品を探すことが一般的である。売場を探すことは買物客にとって煩わしい作業である。ECサイトであれば、検索によって瞬時に目的の売場(ページ)に到達することができる。

売場を探す負荷を軽減する為には、まず、売場レイアウトを買物客にとって直感的に解り易いものとする必要がある。その為には、商品分類基準ではなくカテゴリー基準であることが求められるが、一方で買物客に戸惑いを感じさせるような独りよがりの消費者目線も避けなければならない。そして、買物客にとって、如何に解り易い売場レイアウトであっても、新商品が次々と現れ従来の分類から逸脱するものも多く膨大なアイテム数を扱っている以上、常連客であっても売場を熟知することは困難である。

売場を探さなくても済む買物の仕方、売場を探さなければならない場合には買物客の負荷の軽減が求められる。これらは、従業員の対応負荷を伴わないセルフ・サービス・システムのサービス補完でなければならない。

ピックアップ・カウンター
売場で商品を確認する必要が必ずしもないグロサリー、雑貨などをあらかじめスマートフォンなどで発注し、従業員が売場から商品をピックアップし、生鮮食品などの買物の退店時にピックアップ・カウンターで買物客に引き渡す。決済は、スマートフォンで完結させる。また、商品ピックアップおよび商品引き渡しは、来店客数予測に基づく勤務シフト自動生成システムに基づいて兼任要員をアサインする。これらのフルフィルメント業務に対応する為には、バックヤードがECのセンターと同様に機能する必要がある。
売場レイアウト分析
店内設置カメラによって、買物客の店内行動を把握し、行動分析に基づいて導線および売場レイアウトの最適化を図る。
ストア・コンシェルジュ
店舗入口傍に設置したメディア・キオスクで、買物客の音声入力に対し、音声および画像によって売場案内を含む買物客のあらゆる問合せに対応する。問合せに的確に対応できなかった情報を収集し知識を拡充させる。
チラシ商品所在場所案内
自社スマホアプリに提供されたチラシに記載された商品の所在場所を、音声出力あるいは店内地図で案内する。
売場商品所在場所案内
自社スマホアプリに、商品名を音声入力し、ビーコンを利用して、至近距離に至った時点でスマートフォンあるいは電子棚札のアラームを起動させる。

商品を選ぶ

商品を実際に手に取って吟味するということは、ECでは体験することができない実店舗だけが実現できることである。ECは、その弱点の補完として、リコメンド商品、その詳細な商品説明、口コミなどを掲載する。実店舗においても、体験という優位性に加えて、価格、機能、品質などの訴求であるインストア・プロモーションは極めて重要である。但し、それらは、店舗の売りたいが為の情報ではなく、買物客が知りたい情報でなければ効果をもたらさない。

また、買物客に商品を選んでもらうのではなく店舗が顧客に商品を推奨するという逆転の発想も、選ぶこと自体が煩わしいという顧客にとっては有効である。価格についても、ICTの高度利用によって適切な価格が常に維持されることが求められる。

ミールキット・サブスクリプション
顧客家族構成に適したメニューのミールキットを毎週あるいは毎月のサブスクリプション・サービスとして提供する。新たな業務負荷ではあるが、スマートフォンからの一定日数以前の事前発注、店舗運営ではなく物流センター業務とすれば、即時対応のECと比べてハードルは高くない。
リコメンデーション
入店時に自社スマホアプリに、顧客通過時にデジタル・サイネージに、本日の天気、温湿度などを考慮した、当該顧客向けの以下の内容を含むメニュー、調理動画、レシピを提供する。

食材別栄養素、栄養バランス
同一食材で複数食分の調理ができる複数メニュー
栄養バランスを確保できる幼児が好む食材を使ったメニュー
トレーサビリティ情報
電子棚札によるPOPに加えて、電子棚札を自社スマホアプリに読み込ませることによって、産地、店頭入荷までのルート、通過日など、その商品がいつ、どこで、誰によって作られたのかというトレーサビリティ情報を提供する。また同様に、当該商品のSNS上の口コミ情報を表示する。
ライブ・コマース
店舗に要員を配置することなく、遠隔地に居る従業員が無人の売場の買物客に対してリアルタイム双方向コミュニケーションによる商品説明を行う。また、売場が有人であっても、外国語対応など各店舗に要員を配備することが困難な接客ができる。
EDAP( Everyday Appropriate Price )
POSデータと内部的および外部的コーザルデータに基づくダイナミックプライシングの本格運用によって、見切り処分だけでなくすべての商品・サービスのEDLP(Everyday Low Price)ならぬEDAP(最適価格、Everyday Appropriate Price)を提供する。

レジに並ぶ、お金を払う

買物客にとって、購入した商品の代金を支払うためにレジに並び決済をするという行為は、スーパーマーケットを利用する上で最も煩わしい作業である。

チェックアウト・システムは、買物客の利便性という側面もあったが、寧ろ店舗業務の効率化という目的で進化してきた。何故ならば、チェックアウトは、スーパーマーケットの最も負荷の高い業務の一つであるからである。商品を袋詰めするサッカーという職種を買物客に移管し、マニュアルによる商品登録をJANコード・スキャンに置き換え、釣銭授受を自動釣銭機によって効率化した効果は、チェックアウト業務の負荷軽減に大きく寄与した。その後、POSシステムには、セミセルフ・システム、フルセルフ・システム、POS搭載カート・システムなどが出現している。

POSシステムの本質的機能は、言うまでもなく決済処理と情報捕捉にある。チェックアウト・システムは、単にその手段であるに過ぎない。レジに並ぶ、お金を払うという買物客にとって不可避だった行為は、技術革新によって廃絶されようとしている。セキュリティ、個人情報保護、デジタル・リテラシーなどの課題対応を含め多様な形態が考えられるが、究極のPOSシステムは、買物客が何もしないで店舗に入り買物をしてそのまま店舗を出ていくことができるウォークスルーである。

ジャスト・ウォークアウト・テクノロジー( JWO )
アマゾンのアマゾン・グロサリーで実運用されているジャスト・ウォークアウト・テクノロジー(JWO)は、天井に張り巡らされたカメラおよびセンサー、棚の上のセンサーおよび重量計などのディバイスを含むシステムによってウォークスルーを実現する。これは、コンビニエンス・ストア規模の店舗で適用されていたアマゾン・ゴーに対し、スーパーマーケット規模の店舗にも適用できることを示している。(2020年3月、米国において他企業へのライセンス販売開始)

商品を持ち帰る

買物客にとって、米や酒など重量があるもの、あるいはトイレットペーパーやペット・フードなど嵩張るものの自宅への持ち帰りは、できれば避けたい行為である。特に、商品を実店舗で確認して選ぶという必要がなく、いつもと同じものであれば、ECが遥かに優位である。しかし、生活必需品のワンストップ・サービスというスーパーマーケットの意義から、安易に撤退することは得策ではない。買物客へのサービスの一環として、持ち帰りの代行あるいは手助けが求められる。

買物弱者救済
外部の買物代行サービスあるいは移動販売車とのアライアンスにより、高齢者など買物弱者に対する便宜を提供する。
宅配サービス
買物客が購入した商品を配送する宅配サービスを行う。宅配手段としては、ロボット宅配、自動運転車あるいはドローンの利用を考える。また、あらかじめスマートフォンなどで発注した商品の宅配は、ECそのものであるが、配送先を自宅だけでなく勤務先、託児所などの選択ができるようにする。
カーブサイド・ピックアップ
あらかじめスマートフォンなどで発注した商品を、従業員が売場から商品をピックアップし、駐車場あるいはドライブスルーで買物客に引き渡す。車でスーパーマーケットを利用することが一般的な地方あるいは郊外において求められる。
また、都心であっても、同様に従業員が店舗内設置ロッカーに商品を入れておけば、買物客は自ら持ち帰るにしても、売場を探す、商品を選ぶ、レジに並ぶという行為をせずに都合の良い時間に買物をすることができる。

以上

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