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スーパーマーケットにおけるOne to One マーケティング

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マーケティングの変遷

本来、マーケティングは、言うまでもなく、商品・サービスのターゲットである潜在顧客に向けて行われるべきである。だが、潜在顧客が誰であるか分からない場合や潜在顧客に直接伝える方法がない場合は、不特定多数に無差別に告知することになる。あるいは、ほぼすべてが潜在顧客である場合も然りである。マス・マーケティングは、このような場合に採用すべきマーケティング手法である。マス・マーケティング、即ちテレビ、ラジオ、新聞、雑誌などによる広告は、メディアの圧倒的優位性から長きに渡ってマーケティングの主流であった。しかし、テレビ番組の録画視聴者が8割におよび、CM飛ばしの経験者が9割を占め(2013年度)、新聞購読率が50代でも40%未満(2017年度)という現状においては、マス媒体の効果はかつての見る影もない。スーパーマーケットにおいても、新聞購読率が確保されているのは高齢者のみという現状においては、最早広告を新聞折り込みチラシに依存することは得策ではない。

マス・マーケティングの非効率性の克服策として登場したのがセグメント・マーケティングである。セグメント・マーケティングは、顧客属性によって顧客をグルーピングし、商品・サービスに見合った共通の属性を持つ顧客グループをターゲットとして設定するという考え方である。しかし乍ら、セグメンテーションが地理的、人口動態的な要素に留まり、買物心理に及ばなかったこともあり、優良顧客の優遇策あるいはその囲い込み策に留まったとの感は拭えない。セグメント・マーケティングは、マーケティングの手法として極めて優れた考え方ではあったが、消費者の変化に伴い、適切なセグメンテーションの設定が困難になったことによる限界があったというのが正しい評価ではないだろうか。

セグメント・マーケティングの歯がゆさをICTによって解決するものがOne to One マーケティングである。One to One マーケティングは文字通り一人一人の顧客に対して個別にアプローチする究極のマーケティング手法である。スーパーマーケットにおいて日々発生するデータの分析とそれに基づく多数の顧客への的確なアプローチは到底人間の手に負える業務量ではない。One to One マーケティングの前提として、ポイントカードなどによる顧客のID化、ID-POSデータを始めとするビッグデータの集積、人工知能によるビッグデータの解析、スマートフォンなどを媒体とした個客へのアプローチ、そして購買実績のフィードバックといった一連のデータドリブンを実現するICTが必須である。

消費者心理

スーパーマーケットにおけるマーケティングの目的は、消費者を十分に理解することで消費者にとって馴染みの店になるような関係を構築する、ということに尽きる。スーパーマーケットにおける差別化要素は、立地に加えて、商品・サービス、価格そして販促にあるが、最も有力なのは、それらを通して築きあげられる消費者の店に対する真の愛着や結びつきである。

そうであるならば、マーケティングの前提として、まず消費者行動を通して消費者心理を理解する必要がある。消費者は、情報収集力、購買行動そして情報発信力という点において、大きく変化している。インターネットによって消費者の商品・サービスに関する情報収集力は飛躍的に高まっている。スーパーマーケットにおける主力商品である生鮮食品についても、外食、デリカ、セミデリカ、ミールキットなど提供形態、宅配、ドライブスルー、ピックアップなど提供方法において、店頭で商品を見て選び自ら持ち帰る以外の多くの選択肢がある。また、SNSによって、従来考えられなかった一般の消費者の購買後の情報発信が可能になっており、一人の消費者の評価や不満が多くの消費者へ影響を与える。

このことによって、消費者の購買行動プロセスは、最早1920年代に提唱されたAIDMA(注目⇒興味⇒欲求⇒記憶⇒行動)では説明しきれなくなっており、2005年に電通が商標登録したAISAS(注目⇒興味⇒検索⇒行動⇒共有)あるいはグーグルが2011年に提唱したZMOT(刺激⇒検索⇒行動⇒評価⇒発信)がより適切なものとなって来ている。

消費者行動の理解へのアプローチ

消費者行動を理解するためには、ICTを活用して、「いまできるか」ではなく「できるようになる」という発想が必要である。FOA(フューチャーオリエンテッドアナリシス)思考、即ち未来を定義したうえで、どうすればその因果関係が太くなるのか、それを考えるのがこれからの消費者行動の理解へのアプローチである。例えば、POSデータでは捉えられなかった「購買はしなかったが気になった商品」は、店内設置カメラによる消費者の表情の人工知能による解析で、アテンション(注意)、エンゲージメント(反応)、センチメント(肯定的、否定的)などが解るようになってきた。

また、一方で、人工知能の実務的活用が現実的となってきた現在においても、データは仮設の検証手段であって、データそれ自体から洞察が得られるわけではないことを認識することが極めて重要である。 

One to One マーケティング

One to One マーケティングの目的は、継続購買者に対する継続購買の維持、未購入カテゴリー商品の購買促進および購買離反者に対する再購入促進にある。即ち、個々の顧客に対して、買物情報に基づいて「何故買ったか」そして「何故買わなかったか」の分析を行い、個々の顧客に適合した購買を促進することである。

One to One マーケティングを展開する為には、まず顧客のID化が前提となる。顧客のID化には、言うまでもなく、会員制度とそれに基づく会員IDが必要である。会員IDは、ポイントカードのようなIDカードを媒体とするのが一般的であるが、One to One マーケティングの展開においては個々の顧客への直接アプローチを手段としているので、管理運用面からも、スマートフォンの自社アプリ上の情報でこと足りる。

顧客属性としては、氏名、メールアドレス、LINE ID(電話番号)、住所、年齢(生年月日)、性別、家族構成、更に所得、職業、学歴、ライフスタイル、パーソナリティ、行動様式などが挙げられる。これらの情報は、入会時に収集されることが一般的ではあるが、より多岐に渡る情報を求めることは顧客にとっては煩わしいものであり、入会のハードルを高くすることに繋がるので、入会時の情報取得は必要最小限に留めることが重要である。近年、消費者行動は、住所、年齢(生年月日)、性別、家族構成、所得、職業、学歴などのデモグラフィック・データより寧ろライフスタイル、パーソナリティ、行動様式などの心理的な要素との相関がより強いとの分析が進んでおり、寧ろ以降の買物行動に基づく取引データを重視することが得策と思われる。また、入会時の情報の陳腐化が懸念されるが、誕生日を契機としたアプローチで確認を求めるなど、情報の更新方法の施策が必要である。

次に、誰が、何を、いつ、どこで、どれだけ、いくらで買ったかというID-POSデータの収集が必要であるが、「誰が」という顧客属性と、仮設に基づくコーザルデータ、即ち販促企画などの店内要因および曜日、天気、気温などの店外要因の同時把握が必須である。これらのビッグデータの人工知能による解析によって、個々の顧客に対する個別の顧客アプローチを導き出す。 

顧客アプローチ

顧客に対するOne to Oneのアプローチ媒体としては、スマートフォンを持たない顧客に対してはレシートという方法も考えられなくもないが、自社アプリがダウンロードされたスマートフォンが主流となろう。また、スマートフォンによる顧客アプローチが珍しくなくなってきた現況においては、企業の先進性をアピールする意味からも双方向デジタルサイネージの活用が望まれる。

スマートフォン(レシート)では、顧客に対するOne to Oneのアプローチとして、人工知能による解析に基づく商品およびレシピのリコメンド、お薦め料理の動画の提供などに加えて、お薦め商品のクーポンなどの配布が考えられる。クーポンについてはリアルタイムで使用有無を更新し、使用を促す施策も重要である。

双方向デジタルサイネージについては、会員顧客の通過が無いときは不特定多数向けの商品、サービス、キャンペーン情報を流し、会員顧客の通過の際には、顔認証あるいはビーコン連動などにより顧客を特定し、スマートフォンと同様に、商品およびレシピのリコメンド、お薦め料理の動画を提供する。更に、提供情報に対する顧客の反応および買物行動を把握することによって、双方向デジタルサイネージの効果を評価することができる。

以上

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