コラム

人工知能のスーパーマーケットにおける活用

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人工知能

人工知能(AI、Artificial Intelligence)の定義として確立されたものはないが、一般的に、言語の理解や推論、問題解決などの知的行動を人間に代わってコンピュータに行わせる技術である、と言われている。人工知能に関連して、機械学習、ディープラーニング(深層学習)という言葉をよく耳にするが、機械学習もディープラーニングも人工知能を実現するための手法である。その関係は、人工知能の一部が機械学習であり、そのまた一部がディープラーニングである。厳密な議論を度外視して言うと、人間がプログラムを与えなくても良い人工知能が機械学習であり、一段階ではなく多段階の処理を重ねて複雑な判断をすることができるのがディープラーニングである。

本稿で扱う人工知能はディープラーニングである。そして、人工知能を活用したシステムを開発する実務者は別論として、人工知能の活用を考える上で求められる人工知能についての理解は上記の概念程度で差し支えない。人工知能にどのような知識(データ)を与えてどのような問題の解決に当たらせるかが重要であって、人工知能がどのように問題を解決するのかはブラックボックスで良いということである。ディープラーニングの進化の背景には、コンピュータ処理能力の飛躍的向上と膨大な且つ多様なデータを大量に集積し得るICT技術の高度化がある。このことは、逆に、人工知能の活用には、如何にして大量のデータ、即ちビッグデータを集積するかということが極めて重要であるということを示している。

活用分野の検討

従来、システム化は、目的が先にあってその手段として存在するべきである、という考え方が本流であり、新しい技術の出現を契機にシステム化を考えることは、シーズ・オリエンティッドとして邪道とされていた。しかし乍ら、ICTにおける革命と言っても過言ではない人工知能、とりわけディープラーニング技術の出現は、これまでとは逆のアプローチが求められる。何故ならば、アルゴリズムの存在が不可避なこれまでのコンピュータシステムに対して、アルゴリズムを不要とするそれ自体をコンピュータが創生する人工知能においては、業務に改善ではなく全く新しい解決法を与える可能性があるからである。

ディープラーニング活用の目的としては、一般的に、コスト削減と品質の向上、新たなビジネス機会の創出、そしてクリエティブ性の向上が挙げられる。一方、ディープラーニングに必須なビッグデータとしては、テキスト、画像、音声、センサーが挙げられる。スーパーマーケットにおいても、活用分野の検討においては、既存の人材で進められるのであれば目的を絞らなくても良いが、外部に依頼する場合であれば、まず手の付け易いコスト削減と品質の向上を目的として、ビッグデータが既に社内に蓄積されているかあるいはデータの蓄積が具体的に想定できるものを対象とすることが得策と思われる。

導入体制

人工知能の適用に関するアイデアが浮かんだとしても、それから先に進めるには、膨大な研究開発コストと深い技術知識を要し、それだけの負担に耐えられるだけの資力がないと導入は現実的ではないと思われるかもしれない。しかし乍ら、現状においては、自らすべてを賄わなくても導入をサポートするシステム・プロバイダに委託することもできるし、社内に既存のコンピュータシステムに携わってきた要員が在るのであれば、例えばグーグルの機会学習API、グーグル・クラウド・プラットフォーム(GCP)などを利用することによって、人工知能を活用した自社独自のシステムを構築することができる。

一般的に、人工知能を活用した自社独自のシステムを構築するには、プロジェクトの司令塔であるプロジェクト・リーダー、ディープラーニングの技術者であるデータ・サイエンティスト、人工知能の解析手法であるモデルを組み込んだシステムを作るシステム・エンジニア、そして構築システムの適用業務とデータ・サイエンティストおよびシステム・エンジニアの橋渡し役であるコーディネータが必要である。システム構築を外部に委託する場合は、外部要員が構築システムの適用業務に精通していない場合が多く、適用業務を理解するための要員と時間に対してもチャージを要求するプロバイダもまれではない為、プロジェクト・リーダーは言うまでもないがコーディネータについても内部要員を充てることが肝要である。

適用分野

言うまでもなく、人工知能、ディープラーニングは万能ではない。人工知能に向く領域と向かない領域がある。人工知能に向く分野は、ざっくり言うと大量にデータがあり且つ複雑な問題である。複雑になればなるほど、データが大量になればなるほど人工知能はその効果を発揮する。逆に、データが少なかったり単純な問題である場合には、人工知能はそのシステム構築コストに対して効果が見合わないばかりでなく、誤った判断を下すこともあり逆効果となる。また、1円単位で合わせなければならないといった、結果に厳密性が要求される業務にも向かない。

人工知能の活用

人工知能というスーパーマーケットにおいては未だ新しい技術は、経営のどのような分野領域に活用できるであろうか。以下は、既に先進的な企業で少なくとも実験段階に入っているものと、筆者がスーパーマーケット業務に適用すべきと考えるいくつかの人工知能の活用案である。

商品補充発注

商品発注において最重要且つ最困難な判断は、言うまでもなく売上予測である。人工知能は、最も有能な発注担当者と同等あるいはそれ以上に的確な需要予測を提供することができる可能性を持っている。過去の販売実績とそのコーザルデータ、即ち販促企画などの店内要因および曜日、天気、気温などの店外要因に基づいて、的確な発注量を算出する。発注量の的確性は、POSジャーナルデータに加えて、コーザルデータによって構成されるビッグデータの量に依存する。

また、店頭商品のバックヤードからの補充についても、店内設置カメラによって棚の在庫状態をモニターすれば、補充量を割り出すことができる。バックヤードの商品在庫の取り出し、運搬および商品補充陳列はロボットとの連携によって行う。店内設置カメラによる画像情報からロボットの走行が困難と判断した場合は、担当者のリストウオッチにその旨を伝達し、人手による商品補充に切り替える。

売場レイアウト、棚割検証

POSジャーナルデータ(あるいはID-POSデータ)から、同時購買商品(期間内併買商品)を割り出し、売場商品構成の見直しなどクロス・マーチャンダイジング展開を図る。

更に、店内設置カメラによる画像情報から買物客の行動をモニターし、売場動線の実態、商品を手に取った際の反応などを分析し、売場レイアウトの変更あるいは棚割の改定などに供する。

また、店内設置カメラについては、不審な買物客の挙動を学習させることによる万引き防止、量り売り総菜の画像を認識させることによる単価の自動設定に利用することもできる。

メニュー・レコメンデーション

買物客が手に取った商品のQRコードを自社スマホアプリに読み込ませることによって、天気、温湿度などに適したメニューとそのレシピを提供する。併せて、メニューの身体に与える影響を栄養素単位に表示する。

また、双方向デジタルサイネージに、売場に陳列されている特売商品を使ったメニューを表示する。興味を持った買物客がポイントカードあるいはスマートフォンをかざすことにより、当該顧客の顧客属性および買物履歴から推奨メニューをレコメンドし、推奨メニューの作り方を動画で表示する。

更に、イートインコーナーに、服を着たままで自由に簡単に健康状態を計測できる装置を設置し、健康状態と摂取すべき栄養素などに基づく食品素材、推奨メニューおよびレシピを提供する。また、自社スマホアプリで健康状態を時系列に把握できるようにする。

LSP(Labor Scheduling Program)

実施日、実施時間帯、必要スキル、所要時間などを設定した業務と勤務可能日、勤務可能時間帯、所有スキルなどを登録した要員を掛け合わせて、勤務シフト編成ルールに基づく最適な要員別勤務シフト表および時間帯別要員別業務表を自動作成する。チェックアウト、商品補充発注、サービス・カウンターなど必要要員数が客数に依存する業務については、過去の実績、販促企画、天気予報などのデータに基づき業務量予測を行う。

また、店内設置カメラによる画像情報から、時間帯別業務の実態を把握し、業務内容あるいはRE値(Reasonable Expectancy)の見直しを行う。

ストア・コンシェルジュ

店舗入口に設置したメディア・キオスクで、買物客の音声入力に対し、音声あるいは画像によって買物客の問合せに対応し、セルフサービス・システムの補完を図る。問合せに適確に対応できなかった情報を収集し知識を拡充させる。

また、自社スマホアプリに送られたチラシあるいは音声入力した商品の所在場所を、音声出力あるいはマップ表示で知らせる。商品が置かれている場所に案内し、至近距離に至った時点で電子棚札を点灯させる。

更に、ロボットによる双方向コミュニケーションのマネキン販売、商品説明などにより、販売促進効果を図る。

以上

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