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スーパーマーケットの人時生産性

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スーパーマーケットの営業利益率

我が国のスーパーマーケットの営業利益率は、平均で1.04%、売上高1,000億円以上の企業でも2.06%(2019年スーパーマーケット年次統計調査報告書)に過ぎない。これは、全産業平均と比較して劣悪であるばかりではなく、小売業の中でも他業態と比較して最低ランクである。しかも、これらの数字は年々悪化しており、このまま放置しておくことはできない経営課題である。

営業利益率を確保する為には、荒利益を上げるか、営業経費を下げるか、あるいはその両方を確保しなければならないが、我が国のスーパーマーケットの荒利益率は全産業平均を上回っている。問題は営業経費にある。そして、我が国のスーパーマーケットの労働分配率は、全産業平均を大幅に上回っており、全小売業平均と比較しても高い。従って、営業利益率を上昇させる為には、荒利益率を上げることができればそれに越したことはないが、営業経費、とりわけ総人件費を抑制しなければならないということが論理的帰結である。

スーパーマーケットの雇用環境

総人件費の抑制をいかにして図るかという論点に入る前に、スーパーマーケットの雇用環境について触れておきたい。ポイントは人手不足と人件費の高騰である。

人手不足の背景には、真っ先に少子高齢化による絶対的生産年齢人口の減少が挙げられるが、そればかりではなく、厚生年金、所得税などの優遇制度を適用する為の3号被保険者(サラリーマン世帯の被扶養配偶者)パートタイマーの自主的就業時間抑制も指摘されている。また、外国人採用においても、スーパーマーケットの多くの業務が非特定技能分野、技能実習制度対象外であることによる障壁があり、人手不足の解消策として機能していない。

一方、人件費の高騰は、人手不足による需給バランスを要因とするものに加え、これまで正規社員と比較して低賃金であったパートタイマーに適用される最低賃金の上昇、更に働き方改革の規制によって、避けられないものとなってきている。これまで、スーパーマーケットにおいては、正規社員と比べて低賃金であるパートタイマーの採用によって、総人件費を抑制してきた側面がある。しかしながら、パートタイマー比率は、既に総労働時間の77%に達して飽和状態にあり、パートタイマー化による今以上の人件費の低減を図ることはできない。

そればかりか、働き方改革における同一労働同一賃金が適用されれば、正社員と比べて低賃金で済むパート社員によって生産性を維持することはできなくなる。同一労働同一賃金は、一律に適用されるわけではなく、条件により適用は除外される。しかし乍ら、パートタイマーの時給を、正社員以上の率で上げていかなければならないことは間違いない。また、社会保険などの企業負担も法制改正により負荷が高まることは必至である。

それでは、パートタイマーの人件費は実際のところどのように変わってきているのか見てみよう。2019年9月の三大都市圏のアルバイトの平均時給は前年比2.6%増、27円アップで1,063円、販売・サービス業に限ってみても27円アップの1,052円となっている。また、2019年10月からの最低賃金は、東京都および神奈川県で1,000円を超えている。そして、政府は、毎年3%アップ、時給1,000円の全国的適用を目指している。加えて、働き方改革による同一労働同一賃金を適用すると、パートタイマーの時給は、新入社員レベルの正規雇用社員の年収を300万円と仮定して試算すると、少なくとも現行の1.66倍の1,500円にもおよぶ。

生産性向上策

既に述べてきた通り、スーパーマーケットの営業利益率を改善する為には、総人件費を抑制しなければならない。そして、前項で触れたように、人件費は年々着実に高騰しており今後とも変わることはなさそうである。従って、生産性について抜本的なメスを入れずに手をこまねいていれば、営業利益率は早晩限りなくゼロに近づくばかりでなく、赤字に転落する危険さえ現実性を帯びてくる。

企業の成長というより、より厳しい見方をすれば延命の為にも、人件費の高騰に耐え抜き、営業利益率の改善を果たすための生産性の向上を図っていかなければならない。生産性の向上には、業務改善、ICT(情報通信技術)の活用、そしてLSP(Labor Scheduling Program)の導入が欠かせない。

業務改善

すべての業務に対して、利益を生む作業なのか生まない作業なのかを、厳密な総点検に基づき見直す必要がある。そして、業務の存在自体を、「止める」、「移管する」、「頻度を下げる」といった視点から洗い直さなくてはならない。また、業務それ自体だけではなく、その環境を変えることによって業務内容を変えることを意識しなければならない。例えば、業務自体であれば作業の自動化を検討してみる必要があるであろうし、業務環境については、売場レイアウトや陳列什器の見直し、採算性の精査に基づく特売の在り方の見直しなどが考えられよう。

ICT(情報通信技術)の活用

ICT(情報通信技術)の活用については、店舗内作業において負荷が高いチェックアウト業務、生鮮・総菜・日配の店頭商品補充業務、および同じく発注業務の三つを挙げる。

チェックアウト業務については、無人チェックアウトかチェックアウトレスかの議論がある。無人チェックアウトには、フルセルフ・レジの一層の定着の為にRFIDタグの低価格化とソースタギングが求められる。チェックアウトレスの為のウオークスルー決済の普及には、店内設置カメラ、センサーの低価格化が必須である。いずれの方式を採るにせよチェックアウト業務の省力化は必要であり、未だ着手していない場合は、先行採用企業の活用状況などを参考にしながら、早急に実験段階に進まなくてはならない。

店頭商品補充および発注業務については、陳列在庫自動計測装置あるいは店内撮影カメラを設置することによって、棚陳列商品の在庫状況を一定時間間隔で把握することができる。把握された実在庫データに基づき、AIを駆使して割り出した情報から、自動警告による欠品商品補充、値引き判断、そして自動発注への連動が可能になる。また、リアルタイムに正確な在庫が把握されることによって、棚調べ、棚卸が不要になる。更に、欠品商品補充には、ロボットによるバックヤードの商品在庫の取り出し、運搬および商品補充陳列が考えられる。売場状況によりロボットの走行が困難と判断された場合は、担当者のリストウオッチに当該情報を伝達することも可能である。

LSP(Labor Scheduling Program)の導入

LSPの導入は、それ自体が業務改革である。何故ならば、LSPの導入には、在るべき業務の内容および手順を示す作業指示書の作成が前提となるからである。また、LSPの運用は、在るべき業務に対して要員を割り付ける作業であるから、要員に業務を与えるアプローチでは顕在化しなかった曜日別時間帯別の業務発生量とパートタイマーの採用の不整合をあぶりだすことになる。そして、LSPの評価によって、計画と実績の差異が明確になり、最終的に業務に対する適正な質と量の要員の投入を図ることができるようになる。

まず、自動設定後の需給差異があったらパートタイマーの雇用を見直す必要がある。週当たりの最少勤務日数、1日あたりの最少勤務時間などの雇用条件も必要に応じて見直さなければならない。また、本来業務の逼迫していない時間帯あるいは逆に繁忙時間帯に適正な雇用が困難な場合は、業務の実施時間帯を再検討しなければならない。

次に、業務実績が計画通りに行われたかどうかを精査する。業務実績を精密に捉える為には、スマートフォンなどによる入力あるいはカメラ映像による方法が考えられる。計画に対して著しく実績が乖離している業務に対しては、業務内容あるいは生産性指標(RE値)のいずれかの見直しを行わなくてはならない。

更に、時間帯別業務の計画に沿った実施に支障を与えるような事象に対しては、業務改善として前述したように適切な対策を講じていく必要があり、人時生産性が未達の場合は、業務自体と業務環境双方の見直しをする必要がある。

以上

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