コラム

サブスクリプションのスーパーマーケットへの適用

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サブスクリプション

サブスクリプション(Subscription)は、本来は、雑誌の年間購読を意味する言葉である。そこから転じて有限期間の使用許可を指す概念となった。従って、サブスクリプションは、利用者はモノを買い取るのではなく、モノの利用権を得て、利用した期間に応じて料金を支払う、というビジネスモデルである。

サブスクリプション・モデルは、当初、コンピュータのソフトウェアが一般的であったが、その後、動画配信、楽曲配信などの領域に及び、今や幅広い業種、業態に広がっている。また、一定期間の定額制というビジネスモデルとしての性格をもって、元々買い取りだけで利用権と言う概念のない商品、例えば飲食などの定額制に対してもサブスクリプション・モデルとして捉えられている。

このように広義に捉えると、サブスクリプションとは、特定の顧客の欲求とニーズに着目しそこに向けて継続的な価値をもたらすサービスと言って良いだろう。サブスクリプションを表現する次のコピーが象徴的である。「彼らはクルマに乗りたいのであって、自動車を所有したいのではない。」

サブスクリプションの類型

サブスクリプションの事例は多種多様である。新聞、雑誌一種類の購読といった言葉の元来の意味通りのプリミティブなものや全国各地の蔵元から厳選した日本酒が毎月1本届けられるという従来「頒布会」と言われていたものもサブスクリプションには違いない。

サブスクリプションの典型的な事例である、あらゆる意味でサブスクリプションに適しているデジタル化された商品、即ちソフトウェア、映像、音楽、電子書籍、ゲーム等は既に一般的である。最近では、洋服など非デジタル商品として所有から利用への転換を図ったもの、食品など所有と利用の概念の無い商品のサブスクリプションに多くのモデルがある。

いくつかの特異な事例を挙げよう。デジタル化された商品においては、使いたい放題、見たい放題、聞きたい放題が一般的である。非デジタルの分野でも、食べ放題、乗り放題、着放題といった「・・・放題」が顧客にとってはサブスクリプションの王道であるように思われる。何故ならば、「・・・放題」であれば、顧客は利用しなかったサービスの次の期間での取り戻しが効くと思えるので、未利用期間があることがそのまま解約に繋がらないからである。

最近のサブスクリプションの事例

ワイシャツ ワイシャツのレンタルおよびクリーニング
ワークスペース 電源、Wi-Fiを使えるカフェを利用、コーヒー飲み放題
カフェ コーヒーを来店時1杯
ラーメン ラーメンを1日1杯
洋服 プロのスタイリストが選んだ服が3着届けられる
自動車 レンタルした車が乗り放題、車種変更可
英会話 レッスン受放題の英会話、レッスン回数に制限がないだけでなくオンラインで24時間365日いつでも利用できる
医師への相談 医師へ相談できる回数は無制限

サブスクリプションがもたらすもの

ビジネスモデルとしてのサブスクリプションは、サービスの提供者である企業とサービスの享受者である顧客の双方に利益をもたらし、Win-Winの関係を築くものである。

企業にとっては、第一に、年度初めに毎年ゼロから売上の獲得を繰り返すといった従来型ビジネスから解放され、継続的な売上を確保することができる。第二に、顧客に対し直接にコンタクトできる手段が提供され、しかも個々の顧客との接点によりカスタマーインサイト(人を動かす隠れた心理、欲求さえない状態、商品やサービスを利用してみて初めてわかる感情)に迫れることになる。サブスクリプション以上にユーザ・エクスペリエンスを通してワンツーワンマーケティングをよりよく実現する方法はない。サブスクリプション・サービスにおいては、必要なすべてのインサイトが自社のシステムの中に存在している。第三に、受注確度より解約確度を捉える方が容易なので業績をより正確に見通すことができ、的確な規模の先行投資を実施することが可能になる。

一方、顧客、即ちサブスクライバーにとっては、従来の買い取りと比べて、第一に、誇大広告に惑わされ購入してから気づく不満を未然に防ぐことができる。サブスクリプション・サービスにおいては、お試し期間があればその期間内に、無くても不要なサービスに気づくまでの期間の料金が無駄になるだけである。サブスクライバーは、いつでもサービスを受け始められると同様にいつでもサービスを終了させることができる。第二に、サービスの提供者は購入して終わりではなくサービスを受けてから始まるため、解約されない為には常にサブスクライバーに満足を提供し続けなければならないので、サブスクライバーは継続して料金に見合った価値を受け続けることができる。第三に、サブスクライバーは購入の意思決定、維持費の支払などの負担から解放されることになる。

サブスクリプション・モデルの構築

サブスクリプション・モデルの構築に当たっては、すべての発想を商品からではなく顧客からへと転換しなければならない。その為には、サービスについて、何ができるか、誰に価値があるか、何故求められているかを充分に検討する必要がある。顧客一人一人が異なる顔を持っているということを認識し、その認識の上にビジネスを構築し、顧客との間に真に直接的かつ継続的な関係を確立することである。

パッケージングおよびプライシング、即ちサービスのメニューと種類について、無償も含めそれぞれの料金を設定する際には、勿論コストを度外視することはできないが、物理的な商品に対してつけるのではなく、それを使うことで得られる結果に対して付ける視点、即ちコストパフォーマンス感の重視、が重要である。

プロモーションとチャネルについては、メーカーが参入する場合には、新たに顧客との間に真の一対一の関係を構築し、顧客の行動を理解することに努めていかなければならない。しかし乍ら、既に顧客と直接的な接点のある小売業にとって寧ろ重要なのは、サービスの告知、顧客情報の管理、利用者からの集金などを含む運営システムである。

ERPは、一般的にビジネスモデルとしてサブスクリプションを想定していないので、価格を素早く変更できない、サブスクライバーの経験を反映できない、カスタマーインサイトを見ることができない等々の問題がある。サブスクリプション・モデルをビジネスの中核に置くのであれば、SKUではなくサブスクライバーを中心に置いたシステムを新たに構築する必要がある。SKUの発注、納品、在庫そして販売と言うサイクルを前提としたしくみでは、売れば終わりではなく販売後も関係が続くサブスクリプションでは通用しない。

サブスクリプションにおいて、顧客の獲得と同様にあるいはそれ以上に重要なのは、解約率を引き下げることである。より多くの顧客を獲得し、顧客価値(客単価)を高め、できるだけ長く繋ぎとめる必要がある。その為には、サービスレベルを上げる(アップセル)あるいはサービスアイテムを増やす(クロスセル)というサービスの進化が求められる。また、解約などにおいて、顧客が面倒な手続きをとらなくても良いようにすることも新規顧客確保の為に逆に必要となる。

顧客との関係が深まるにつれて、提供するサービスは彼らの生活の大きな部分を占めるようになる。顧客獲得コスト、生涯顧客価値、年間定期収益、顧客当たり平均収益などを容易に捉えられるシステムが必須である。

サブスクリプション・モデルのスーパーマーケットへの適用

取扱商品がデジタル化されていない小売業、殊に日常の食品を主として扱うスーパーマーケットにおいては、サブスクリプション・サービスは適用しにくいが、常連客と特売商品だけを狙うチェリーピッカーを明確に識別し、優良顧客として店舗のファンに導いていく、ユーザ・エクスペリエンスを通してワンツーワンマーケティングを実現するという見地から、検討の価値があるのではないだろうか。

ひとつのアイデアとして、手始めに、イートインコーナーを区切ってコーヒードリッパーを設置し来店時コーヒー飲み放題のサービス、それらをゴールド・メンバーとして、更にプラチナ・メンバーとして、コーヒー飲み放題に加えインストアベーカリーのパンを置いてパン食べ放題と言うサービスメニューはどうだろうか。

ゴールド・メンバー、プラチナ・メンバーを増やし、顧客の固定化を図り、ポイントカード会員の来店、購買を一元的に把握し、パッケージングを進化させていくことによって、そこからカスタマーインサイトを見ることが可能となり、新たな店舗施策に結び付けることができるかもしれない。

以上

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